FM音源マニアックス

http://www.famitsu.net/mobile/melomelo/sp/fm.html
やはり、サークルFMPSG主宰としてこのCDの事を書かないわけにはイカンでしょう!
…というわけで、本日やっと届いたわけですが…

古川もとあき氏のサイン入りCDが当たっちゃったよ!!! サイン入りCDは、アンケートに答えた人のみの早期購入特典なんですが、実際に注文の段階になってみると「抽選で10名様」になっててガックシ。(T_T) こりゃ当たらんよなぁ…と思ってたんですが、まさか当たるとは! 家宝にします〜(^^)

そんなわけで、早速聴いてみたわけですが…既にネット上にいくつかご意見が出ているとおり、実際のところは(ゲームミュージックにおいてFM音源が現役だった当時を知っている人ほど)賛否両論(主に否のほう)が出ているようです。 アルバムタイトルのとおり、基本は「FM音源を使って著名なゲームミュージッククリエイターが新曲を作る」というものなんですが、80年代〜90年代前半くらいのゲームミュージック的テイストを期待すると、かなり肩透かしを食らうかもしれません。 それもそのはずで、アルバム参加クリエイターの名前を見ていると、80年代くらいから現役でFM音源を操っていた人は少数派で、多くが90年代のPCM/ストリーム/CD-DA以降の方のようです。 私も、最初に聴いた感じでは、いまいちピンと来ない部分もあったのは事実です。 それは、やはりFM音源とセットである種の「お約束」的な部分を期待していたんじゃないかなー、と思ってみたり。 しかし、新しい感性を持って90年代以降に名を馳せたクリエイターに、80年代と全く同じテイストを求めるのも少々酷なのかなぁ…と。 もちろん、80年代クリエイターの感性と音色は今でも私にはツボですし、そういうのを好むのも事実なんですが…(^^;)

とりあえず、1度聴いて頭の中の先入観が取っ払われたところで、今日は外出ついでに一日中このCDの収録曲をループで聴いてました。 ずっと聴いてると、最初はあまりお気に入りではなかった曲も徐々に気に入ってきたりなんかして、結構いい感じです。(^^) そんなわけで、久々に全曲レビューをやってみたいと思います。

[Tr.01 追憶/桜庭統]
桜庭氏といえば、前の日記にあるとおり「ヴァルキリープロファイル」「スターオーシャン」等の楽曲で今でも評価が高く、キーボードと変拍子を華麗に操る素敵なプログレ兄貴なわけですが、オールドゲームミュージックファンの間では、ウルフチームのコンポーザとして「グラナダ」「ソルフィース」等の楽曲の評価が高い方です。 …ただ、この方はFM音源をバリバリに操ってるイメージが無いんですよね、実は。 確かにウルフチーム時代は内臓FM音源で楽曲を鳴らしていましたが、音色などは日本テレネット時代からの使いまわしで、割と泥臭いベタな音色だったので(もちろんコレはコレでFM音源臭くて私は好きですが)、桜庭氏の実力を考えると、マニピュレイトは別の方がやってたんじゃないかなー、なんて思ってたわけです。
そんなわけで、果たしてFM音源をどう操るのか…と思ってたら、現在の楽曲とほとんど遜色の無いものを作ってきたなぁ、といった感じ。 DX7IIを使って作ったそうですが…ここまで作りこまれると、もうFM音源っぽくないなぁ…(^^;) よく考えたら、桜庭氏は普段からアナログシンセで音色を作ったりしてるわけで、内臓音源ではなく「楽器として」の音色作成であればむしろプロフェッショナルなんだなぁ…ということに気づいた。(^^;;) 楽曲自体は、ヴァルキリープロファイルの曲とかが好きであれば文句なしにオススメです。 でも、FM音源に聴こえないんだよなぁ…(^^;;)

[Tr.02 Liquid soup/細江慎治]
細江氏といえば、ゲームミュージックファンなら知らぬ者はいない「ドラゴンスピリット」ですが、それ以降はナムコのシステムIIを機にパワーアップした音源を自由自在に使い倒し、PCMとFMの長所を巧みに引き出すことで、音色も含めた楽曲自体のトータルクオリティが素晴らしく高いコンポーザでした。 私にとっては神様みたいな存在ですが、M3などではご本人様がよくいらっしゃるので、意外に近い存在にも思えるのが不思議です。(^^;)
さて、細江氏の楽曲ですが…最初のシンセベルやシンセタム音色でFM音源らしさを演出しつつ、伸びるシンセのメロディでグイグイ引っ張っていくところは流石細江氏といったところです。(細江氏の楽曲って、白玉(二分音符や全音符などの長音)の使い方が上手いんですよね) 今回の収録曲で、昔のゲームミュージックのテイストに一番近いのが細江氏の曲かなぁ…なんて思いました。 微妙にマイナーな感じなんかもかなりツボでした。

[Tr.03 tulip/佐野電磁]
今回の企画の発案者だそうです。(コレは個人的にちょっと意外だった) 佐野電磁さんはリッジレーサーシリーズや鉄拳シリーズでお馴染みですが、もうこの頃にはかなりFM音源の比重が少なくなっていた気がするので、果たして佐野電磁氏がどうFM音源を使うのかに興味がありました。
楽曲自体は、細江氏が割とトラディッショナルなゲームミュージック寄りの楽曲なのに対し、佐野氏のはリッジ以降の新しい感性だなー、というのが第一印象。 明確なメロディが無く、規則的なビートに様々な音を重ねることで独特の雰囲気を形作っています。 リッジレーサー2の「GRIP」みたいな雰囲気を感じますが、ノイジーで金属的な音だったり、ベースラインで鳴っているブラスっぽい音なんかはまさにFM音源の音。 FM音源で鳴らしたメロディを楽しむのではなく、FM音源の「音」そのものを楽しむといった感じですね。

[Tr.04 Feeling Melodic/大久保博]
こちらは、佐野電磁氏よりもさらに新しい世代の方ですね。 リッジレーサーでも、プレステで独自シリーズを重ねた頃からの方で、細江氏らが作ったいわゆる「イカレ系」の楽曲から脱却し、新たな方向性を模索し始めた頃の方だと思います。
さて、この曲は…あー、なんかプレステのリッジでこれに近い曲聴いたことあるなぁ、といった感じ。 ただ、疾走感という感じではなく、サイン波寄りの音色+ポルタメント入りで同じフレーズを繰り返すことで、独特の浮遊感が味わえる曲です。 これまたメロディ主体ではないので、昔のゲームミュージックっぽいのを期待するとイマイチなんでしょうけど、私は聴いてるうちに結構好きになりました。(^^)

[Tr.05 Lazy Night/伊藤賢治]
イトケンといえば、「サ・ガ」シリーズのバトル曲の印象が強い方で、ドラマチックな楽曲を真っ先に思い浮かべます。
…が、この楽曲は、敢えてそういう楽曲ではなく、タイトルどおり「夜」をイメージさせるテクノポップ風味な曲に仕上がっています。 途中にサイン波っぽい音でポツンと入るコードが、暗闇にぱっと点る街灯みたいなイメージを想起させますね。 あたりが暗くなって、夜の住人が動き出す…といった感じでしょうか。 FM音源で奏でられるお約束なシーケンスパターンが心地よいです。 それにしても、私がイトケンに持っているイメージとはかなり異なる曲なんですが…今後は古代祐三氏みたいに様々な作風に変化していくんでしょうかね…??

[Tr.06 The Absolute Primitive/下村陽子]
あんまり詳しく知らなかったんですが(^^;)、スクエニの前はカプコンの方だったんだそうですね。 あの頃はみんな匿名(ペンネーム)でやってたので、本名とイコールで結びつきませんでした。(^^;) 個人的には、この方の作品では「聖剣伝説 -LEGEND OF MANA-」あたりが好きです。
さて、楽曲ですが…ストイックなシーケンスパターンの繰り返し+キックという構成は、割と今風の曲だなぁ、といった感じ。 FM音源にしてはちょっと音が豪華かなぁ…というわけで、多分FM音源シンセ系の楽器を使ってるんじゃないでしょうかね。 最初はストイックな感じでしたが、終盤になって音が重なっていき、大きな波となった後にすーっと引いていくという展開は結構いいかも。

[Tr.07 L.s./なるけみちこ]
実はこの方もあまり知らないんですが(^^;)、baddyさんが「この方はいい曲作るよ」とか云ってた気がする。
さて、聴いてると前のトラックと自然につながるような雰囲気だったので、実は下村氏とお互いに意識しながら作ってるんじゃないかなー、と思ったり。(^^;) こちらのほうは、単純なシーケンスの繰り返しだけではなく、FM音源っぽさを出したメロディやシンセベルっぽい音色のバッキング、ソロっぽいパートなんかもあったりして、重い雰囲気の中にもアグレッシブな面が見られてなかなか面白い曲だなぁ、と思いました。

[Tr.08 eastshire/渡辺恭久]
Yack.氏は、もー私の中ではメタルブラックな人なんですが(^^;)、最近ではG.revのSTGの楽曲を担当されていたりもして、こちらもなかなか良い感じでお気に入りだったりします。
さて、Yack.氏のFM音源時代といえばタイトーになるわけですが、この頃は基本的にタイトーが良く使ってたブラス音中心で音色が泥臭いイメージがありましたが、今作ではどちらかというと、最近の作品「旋光の輪舞」で見せたガラスのような透明感と、どこか陰のある感じが融合していて素晴らしい仕上がりになっていると思います。(ちょっと音が洗練されすぎてFM音源っぽくない気もしますが…^^;) 身体の中に様々な色彩の電子が沁み込んでいき、化学反応を起こして新たな色彩を広げていく…といった感じのイメージが私の脳内で広がりました。 あと、デチューンのかかったクサいベースラインが密かに好みかもしれない。(^^;)

[Tr.09 ozone岡部啓一]
この方は、鉄拳の楽曲で有名なほかに、トルバのCDでも何度かお名前を見かけたなぁ…というのを覚えてますが、楽曲の印象があまり無いなぁ…(スミマセン)
ちょっと跳ねるようなリズムの楽曲(あんまり詳しくないんですけど、こういうのって2stepっていうんですか?>詳しい人)が心地よい感じです。 この方も明確なメロディが無く、雰囲気で聴かせるタイプのようですね。 音でいうと、シンセベルの音色のアタックを弱くした感じの音が結構いい感じ。 …と思ったら、後半で微妙にメロディっぽい音が入って展開した部分がちょっと良かったかも。

[Tr.10 虹の彼方へ/古川もとあき]
コナミのメインコンポーザで、80年代後半〜90年代にかけて数々の名曲を残された方ですね。 アーケードゲームでは、「グラディウスII」「A-JAX」「XEXEX」などを手がけられているそうなので、FM音源もバリバリ使えるんじゃないかと思ってたんですが…ライナーノーツに衝撃の発言が! 「FM音源は、アーケードゲームの開発で使用していた頃から、ほとんど使用しておりませんでした。」 えぇ〜っ、マジですか??? ということは、実は古川氏って作曲だけを請け負っていて、マニピュレイターは別にいたって事なんですかね?(そういえば、「千両箱」でモアイ佐々木氏がFM音源講座みたいなのをやってたのを思い出しました。 コナミのマニピュレイターはモアイ佐々木氏だったんでしょうか…??)
というわけで、古川氏の楽曲は、コナミっぽいアレンジを期待すると「あれっ?」と思ってしまうかも。 基本的にはエレピとメロディ以外はアンビエントな和音を奏でるのみで、あくまでメロディを際立たせる為の脇役に徹しているといった感じ。 しかし、そのおかげでメロディの良さが際立っており、雲間を1本の光の筋がゆっくりと駆け抜けていくといった雰囲気がします。 メロディは古川氏の色そのもので、エレピのアルペジオを聴いた瞬間に丸わかりだったんですが(^^;)、後半の節回しなんかもちょっとニヤリとしてしまいました。 ちなみに、FM音源なのに敢えて矩形波っぽい音をメロディに据えているところを見ると、実は古川氏はFM音源よりもPSGとかのほうが好きなんじゃないかなー、なんて思ったり。(元々MSXでPSGやSCCを使って楽曲を作っていたそうですし)

[Tr.11 tripleVOPM/三宅優]
この方もナムコのかなり新しい方ですね…というか、ナムコ関連のコンポーザが多いなぁ、このアルバム。(^^;) 私のイメージだと、「塊魂で豪華アーティストの合間に肩の力が抜けるような変な曲を書いてた人」というイメージが強かったりします。(^^;)
さて、楽曲を聴いてみると…まず思ったのが、「この人、わかってるな」って事。 楽曲自体は、メロディがほとんど存在せず、ほとんどはひたすらパーカッションが繰り返されるだけのかなり前衛的な曲なんですが、音色の1つ1つにニヤリとさせられてしまいます。 金属的なカウベルの音、シンセタムの音、後半に入ってくるディストーションがかったシンセの音…音色単体を取ってみると、きっと昔のゲームミュージックなんかで馴染みのある音色だと思います。 それもそのはず、ライナーを見ると、昔はPC8801FAで打ち込みをやっていて、今回はVOPMというOPMのソフトシンセを使っているそうで。 もう、音色だけでご飯3杯くらいイケちゃうかも。(w それでいてガッツリと個性を出した変な曲ってところがたまらなく素敵です。 私の中では、今後の要注意人物として指定されました。(何

[Tr.12 Metamorphose相原隆行]
この方もリッジあたりから有名になった方だと記憶してますが、その前のタンクフォースがデビュー作だったと思いますので、FM音源だけの楽曲も経験されているようです。
楽曲は、ちょっとホッとするテクノポップのテイストが感じられます。(簡単に書くと、シンセタムとかメロディのモジュレーションにYMOっぽい雰囲気を感じた) しかし、シンセベルやメロディのアタックなど、金属的な音色が多用されているところにFM音源らしさを強く感じ取ることができます。 前の曲が耳をやたらと刺激するような曲だったので、次にこういうトラックが来るとほっとしますね。

[Tr.13 everlasting/高橋コウタ]
またまた最近のリッジシリーズで有名なコンポーザの方です。 この方は、リッジシリーズで毎回ナムコの過去の名曲をリミックスされているので、私の中ではかなり要注意人物です。(w
さて、今回の楽曲ですが、リッジで見られるようなアグレッシブで煌びやかなアレンジとは違い、目の前に美しい朝焼けが広がっていくような穏やかな曲になっています。 アンビエントなコードに重なるシンセベルっぽい音色が印象的で、私は結構好きです。

[Tr.14 4operators/古代祐三]
こちらも言わずと知れた方ですね。 きっと、ゲームミュージック史において古代氏の存在がなければゲームミュージックの進化はもっと遅れていたのでは…ともいえるくらい、音源にも造詣が深い方です。 ただ、毎回最先端の曲を吸収していくあまり、楽曲のテイストがあまりに変わってしまうので、ファンが戸惑ってしまうこともしばしばありました。(私もそんなふうに思ってた時期はありました。 今客観的に聴くと、それらの曲もあまり違和感無く聴けるんですが…)
というわけで、当時とはあまりに作風が変わってしまったので、果たして当時のような、あるいは当時を越えるような楽曲を再び作れるのか??と一抹の不安もあったわけですが…そんな不安は杞憂でした。 私の古代氏のイメージだと「ポップンロール」なんですが、そういう楽曲とはちょっと違うものの、そのルーツの1つと思われる、バリバリのプログレな曲で攻めてきました! コレ、音色を抜きにすれば桜庭氏が作ったって云っても半分くらいの人は信じるかもしんない。(^^;) しかし、当時とは若干違うものの、音色にはやはり古代テイストを感じます。 4オペ音源ですが、当時の音源と比べると音数が多いので、ギターやシンセの音色が、変拍子とテンションの高いコードに乗せて重厚かつ縦横無尽に駆け回るといった感じです。 前のトラックまでで穏やかな雰囲気に落ち着いてきていたので、そのまま落ち着いた感じで終わるのかと思いきや…最後にこんなラスボスを用意していようとは。 文句なしにカッコイイです。 古代氏を見直しました…っていうか、次に新作を出す時は是非こんな曲を中心に書いて欲しいなぁ、なんて思いました。


…というわけで、最初の印象は肩透かし気味だったものの、改めて何度も聴いてみると、それぞれの楽曲の良さが見えてきてなかなか面白いアルバムだなぁ、と思いました。 自分に合わないということで押し入れにしまっちゃった方、是非引っ張り出してあと3度聴いてみてください。 聴くときは、スピーカーよりもヘッドホンで大音量で聴きましょう。 そして、1つ1つの音色に耳を傾けてみてください。 そのうち、頭の中を駆け回る音色の1つ1つに良さを見出せるようになってくる…と思いますよ。(^^)