detune./わ・を・ん

わ・を・ん ~ detune.


http://www.faderbyheadz.com/release/headz90.html
たまには珍しくゲームミュージック以外のレビューを。
元々、Amazonで高野健一(pal@pop)の新曲「さくら」を買おうとしていたんですが(この曲も名曲!)、その時にAmazonに「こちらもおすすめ」されたのがコレだったんですね。
とりあえず、全く知らないアーティストだったので、軽くググってみたらこんなサイトに遭遇。 どうやら、「detune.」はこのアルバムでデビューしたばかりの新人アーティストで、プロデュースを pal@pop がやっているらしい。 …で、サイトで2曲試聴が出来たので、早速聴きました…ヤヴァイよコレ! モロ好み!ということで速攻で購入。 届いた後もむしろこっちばかり毎日聴いているといった状況です。(高野さんすみません)

個人的にまず引っかかったのは、「detune.」というアーティスト名でした。 「デチューン」といえば、我々の世代でPSG系チップをいじったことのあるベーマガVGM世代ならもはや常識のテクニックですね。 同じ音を周波数が微妙にずれた状態で重ねることで、音に厚みと広がりが出せるんです。(別名「コーラス効果」と云っていた人もいました) …というのは余談ですが(^^;)、アーティスト名はここでいう狭義の「デチューン」とは直接は(たぶん)関係無いと思います。 「detune」の広義の意味は、恐らく「調子・調和」(tune) を「外す・乱す」(de-) ということだと思います。 では、何故この名前をアーティスト名に用いたのか? その答えはアルバムに収録された楽曲自体が表していると思います。
音楽に限らず、感動というものは普段の感情からの心の揺れの落差に比例すると思います。 音楽でいえば、BGMに徹していて邪魔をしない曲というものには、あまり感動できません。(これは意図して心を乱さないような曲になっているからで、これはこれで存在意義がありますが) 逆に、心をかき乱すことが出来る曲というのは、感動につながる可能性があるわけです。(かき乱すといってもその「質」や「ベクトル」が色々あるので、「感動」と一括りにするのは難しいかもしれませんけど…)
そこでこの「detune.」というアーティスト名。 彼らの奏でる音楽は、まさに「心をかき乱す」音楽です。 それも、乱暴な方法ではなく、心に優しく、深く染み入るような音楽で。 彼らが紡ぎだす極上のメロディは、まるで乾いたスポンジに水が染み込むが如く、心の隙間に深く染み入ってきます。 これは、ヴォーカルの郷拓郎の中性的な声質(声変わりを始めたばかりの男子のような大人と子供の中間のような声)によるところも大きいのかも。

アルバムの中で特にお気に入りなのが、「ムシバメルモノ」と「星に願いを☆」の2曲。 特に後者は毎日何度も聴いてますが全く飽きません。 前者はアコギを中心とした曲で、ここだけ聴くと類似のアーティストをいくつか思い浮かべますが、後者は前者とは違い、4つ打ちのリズムに矩形波などの音が乗ったアレンジとなっており、矩形波っぽい音が好きな私なんかはそれだけでもかなりツボだったりします。 このあたりはpal@popの感性による部分が大きいのかもしれません。 しかし、これらを決定的に唯一無二の存在にしているのが、メロディの素晴らしさだと思います。 サビでは必殺の泣きメロが炸裂していて、居ても立ってもいられないくらいに心をかき乱されます。
また、同じく郷拓郎が紡ぎだす歌詞も心に沁みます。 まだ若い(と思われる)のに、なんなんでしょう…この悟ってしまった感は。 ちょっと形容するのが難しいんですが、現世の嫌な部分が透明な世界の中で全て見透かされたかのような歌詞。 でも、スローモーションで流れるその詩の世界観の中で、ふと目にする何気ないものが象徴的に描写されていて意味を持つといった感じ。 そして、印象的なのが、詩の多くに「君」という対象が出てくること。 歌詞に出てくる様々な抗えないことを受け入れつつも、「君」に対して自分の意志を表明している…といった歌詞が多いです。 それは紛れも無く「君」に対する愛おしさから来るもので、そこがある種のラブソングとして共感できるのかなぁ…と。
あと、今作のジャケットに描かれている西島大介氏のイラストも、このアルバムの世界観をよく表していて絶品です。 色鉛筆でシンプルに描かれた断崖に立つ少年と少女。 まわりに見えるのは宙を舞う断崖の岩の破片と惑星と花と…って文字だけで書くとなんだかわけわかんないですが(^^;)、殺風景な異世界にただ2人だけ取り残された少年と少女。 彼らの目線でこのアルバムの物語は紡がれているんじゃないかと思いました。(ちなみに、西島大介氏の漫画はまだ読んだことが無いんですが、最近本屋でたまに見かけてちょっと気になってます。 コレはオススメ!というのがあれば是非教えてください)

今まで色々な曲を聴いてきましたが、ここまでの「当たり」に出会えるのは数年、もしくは十年に1度くらいだと思います。 それくらいお気に入り。 一言で書くと「せつなさ炸裂」って感じ…って、こう書くと一部の方に激しく誤解されそうですが、本来の意味で受け取って戴ければと。(^^;) サイトで試聴が出来ますので、ピンと来た方は是非聴いてみてください。 気に入った方にはきっと一生もののアルバムになるんじゃないかと思います。