TALK

http://www.vorc.org/event/talk/
週末、ゲームミュージックファン的に重要なイベントが2日連続で開かれました。 …ということで、今回はそのレポを。
まずは、金曜夜に早稲田で行われた、ゲームミュージックトークイベント「TALK」です。 このイベントは、Chiptune界ではその名を知らぬ者はいないVORCのHallyさんと、同じくVORCのデザイナーであるDo.さんのお二人が、ゲームミュージックにまつわる話をしつつ、それに絡む曲を紹介していこうというイベントです。
最初、Hallyさんが行うイベントということで、Chiptune系の曲紹介がメインなのかと思ってたんですが、これがまた守備範囲が広い広い。 ゲームミュージックの原点である60年代(!)のエレメカ曲の紹介(テープのL/Rで違う曲が入ってたり、左に曲、右に効果音が入っていて、ゲームの効果音を鳴らす時にはRの音量を上げるなど、色々と試行錯誤が行われていたようです)から、海外の楽曲の紹介、更にはごく最近の子供向けゲームの楽曲まで、本当に色々ありました。 なんせ、リクエスト楽曲以外はほとんど私が知らない曲なんですよ。 CD音源化されているものは結構聴いてるんですが、まだまだ色々あるんですねぇ。…で、このイベントは単にゲームミュージックを紹介するだけではありません。 最初にトークの進行表(セクション別のお題)が配られ、現在ゲームミュージックが置かれている状況にメスを入れ、テーマ別に問題点を明らかにしていこう…というスタンスで進行していきました。 例えば、「G.M.Oの様式美」というセクションでは、当時のアルバムでは単にBGMを録音するのではなく効果音が重要な役割を果たしていた…という話があり、例としてテクモのボンジャックの楽曲が流れました。 要は、単にBGMが素で録音されているのではなく、曲の進行にあわせていいタイミングで効果音が入る、という感じ。 今で云うリミックスのはしりのようなものでしょうか。 「環境さえあればいくらでも素のゲームミュージックが聴ける時代なのに、今のゲームミュージック機械的に2ループ効果音無しの録音になっている。 このようなCDは、商用にするのではなく博物館にでも寄贈すべきだ」「ただ綺麗に録音するだけであれば素人にでもできる」という話が出てくると、サイトロンのCD録音に以前関わった身としては少々耳の痛い話ではあります。(^^;)
これに関しては、いち関係者としてちょっとだけ反論させて戴きたいんですが(※このあたりの話は、イベント後にHallyさんにもお話させて戴いています)、まず「博物館行き」なサウンドは、実はコンセプトとしてはまさにその通りなんです。 当時のサイトロンのプロデューサさんに伺った話では、「昔のゲームミュージックを資料的価値としてそのままの形で残しておきたい」という思いで企画していたそうです。 その際、「昔のゲームは効果音が鳴るとBGMが削られてしまうものがある。 資料として残しておくには、効果音を取り除いて録音しなければならない」という事で、私などが色々と関わることになったわけです。 また、効果音云々の話は、元々ゲームミュージックファンのニーズに応えた形でもあったと思うんですよ。 私なんかも、(当時は)アポロンの「オリジナルゲームサウンドストーリー」(ゲームプレイを編集してそのまま録音してある)なんかは「効果音邪魔!」って思ってましたし。(^^;) また、「素の音楽を鳴らして録音するだけなら誰でもできる」というのもちょっと違います。 前述の「効果音を取り除く」という作業は詳しい人でないと出来ませんし(力業を使えば効果音をある程度回避することも可能ですが…昔からのゲームミュージック好きなら、弾を撃たずに敵の攻撃を一生懸命かわしつつテープを回し、「やった、1ループ録音できた!」と喜んだ経験がある人もきっといらっしゃるはずです)、録音の際も各自のこだわりがあります。 例えば私が担当したMSX系サントラの場合は、通常のMSX本体出力だと音がこもる&ノイズが乗るので、本体の音源ピンから直接信号を引き回して、自分で高音質コンデンサを噛まして録音しています。(音が良すぎて、逆に「高音がキツ過ぎる!」って意見もありましたが…^^;) 「理想の音に近づけるとエミュの音と同じになっちゃうんじゃないの?」というご意見もあったんですが、これははっきり断言します。 エミュ録の音と実機録音ではまるで音が違います。 これは使用エミュの種類や好みによっても違うかもしれませんが、MSXの場合はエミュの音が軽いのに対し、改造実機録音だと低音にメリハリが出ます。 …というわけで、サイトロン5pb.のサントラに関しては、色々と試行錯誤の結果ああなったということを頭の隅にでも置いて戴けると幸いです。 …が、超個人的意見では、昔の効果音入りサントラやアポロンの風呂場エコーのサウンドは、今聴くとアレはアレで結構好きだったりします。 特に、アポロンのエフェクトの凝り方は尋常ではなく、フェードアウトの時にフランジャーをかけたり、パンを左右に振ってみたり…特に、風呂場エコーで一部ではお馴染みの「ドラスレファミリー」のサントラテープ(これって確かシングルCDにはならなかったんですよね)は、「MSX版」と銘打ちながらもファミコン版の曲も含まれており、なんと曲によってはファミコン版とMSX版を同時に演奏させていると思われる曲もあります。 こういう妙なこだわりはサントラならではのものです。 流行は20年で一回りするという説もありますので、そろそろまた特殊編集のゲームミュージックサントラが流行り出す…かも?
他に印象的だったのが、「シンクロ幻想」という話。 ゲームミュージックを語る際に「場面とシンクロしている」というのが1つのウリになる場合がありますが、この点に関しては、カートゥンのレベルには全く及ばない、という話。 実例として、懐かしの「トム&ジェリー」の映像を見たんですが、キャラのコミカルな動きに合わせて自由自在にBGMが変化していく様は、改めて意識して見てみると目から鱗状態でした。 ゲームミュージックは、ユーザのコントロールによって状況が変化するという意味では、最初から動きが決められているカートゥンとは違って難しい部分だとは思いますが、これに近いレベルまで実現できれば、「ゲームを盛り立てるゲームミュージックの役割」としては、今まで以上に大きなものになるのかもしれません。(…ただ、あまりにインタラクティブになり過ぎるとアルバム単体で聴くのが辛そうですが…^^;) ちなみに、このへんの話に前後して、Do.さんから「映像を邪魔しないようゲームミュージックが控えめになってきているが、今までゲームミュージックが前に出過ぎてゲームを邪魔したなんて話は聴いた事がない。 もしそう感じるなら、ゲーム自体がツマラナイからだ」という話があったんですが、ここはかなり同意。
あと、最後につい最近の子供向けゲームについての話があったんですが、このサウンドを手がけているのが、一部のゲームミュージックファンの間で語りぐさになっている「ガブリンサウンド」なんだそうです。(実は私も「ガブリンサウンド」についてはあまり詳しく知らないんですが…今売りのゲームサイドに記事が載ってるそうなので勉強します) 確かに、今の洗練されたゲームミュージックが失ってしまった要素を、このゲームミュージックは少なからず持っている気がします。 Hallyさん曰く「我々が好きだったサウンドと同じものが次の世代に受け継がれていかない。 このままでは我々の好きなゲームミュージックは滅びてしまう」とのご意見。 つまり、(狭義の)「ゲームミュージック」に込められた良さというものを認識し、次の世代に伝えていかなければ…というところでイベント終了となりました。
私なんかは、昔の電子音バリバリなゲームミュージックも今の洗練されたゲームミュージックもどちらも聴きますが、それぞれに良さはあるものの、昔のゲームミュージックが持っていて今のゲームミュージックが失ってしまったものは沢山あります。 私の場合、今のゲームミュージックの多くは「普通の音楽の尺度として」好きなのかもしれません。 作曲者が私好みの旋律を書くとか、別の音楽ジャンルに当てはめた場合に好きとか。 じゃぁ、「ゲームミュージックとして好きなのはどんなのよ?」って話になると、結局はゲームミュージックの定義って何なのよ??」ってメタな話になってしまうんですかね…難しい部分です。(私の場合、オールドゲームミュージックの魅力という部分に狭めてみると、ゲームミュージック的様式美(6拍子・12拍子、オケヒット、ボス曲の変なテンション…って全部コナミやん^^;)とか、当時の音源が奏でる音色なんかがキーなのかなぁ…と思います) ただ、私の音楽の守備範囲を広げたのも確実にゲームミュージックだと思います。 私も最初は「内蔵音源のオリジナルバージョンじゃなきゃヤダ」ってクチでしたが、音楽環境が変わって一般の音楽と変わらなくなってきたとき、昔無意識に引いていた境界線がかなり薄くなってきたのを感じました。 なので、今は生演奏や過度なアレンジバージョンなんかも普通に聴けるようになり、むしろ「原曲がこんなふうに変わっちゃうの??」みたいな面白さも感じるようになりました。 ただし、こういう聴き方は「名曲である原曲があってこそ」という面もあるんですが…んー、なんかまとまらないなぁ。 難しい話です。 ただ、最後のくだりは次のエントリ「EXTRA」を(私と同世代のゲームミュージックファンが)どの程度楽しめるか、という部分に関連してくるのかもしれませんね。 あと、狭義のゲームミュージックとして私が好きな音楽をどう伝えていくか…という部分の答えの1つは、私がFMPSGとか「Famicompo」でやっているような「現代のゲームミュージックを昔の音源で鳴らす」ことなのかもしれません。 「この手の音が好き」というのは偽り無い事実で、好きだからこそ、ある意味こんな面倒なことをやってるわけですから。 これを聴いて、昔のゲームミュージックの良さにも気づいてくれる人が増えれば…と願う今日この頃です。