放浪息子

志村貴子さんという方の漫画で、現在3巻まで発行されてます。
前に書いた山名沢湖さんの漫画を読んだ数日後に本屋で見つけたのがコレです。 またも表紙を観て一目惚れ。(w ちょうどこういう細い線の絵にクラっとキてる時期だったので、この漫画家さんも内容も知らないのに、吸い寄せられるようにレジに持っていってしまいました。(^^;)
漫画の内容ですが、小学5年生(※1巻での設定)の密かに女の子になりたい願望を持つ男の子「ニ鳥修一」と、同じく男の子になりたい願望を持つ女の子「高槻よしの」が主人公で、修一が高槻さんの学校に転校してくるところから始まります。 ある日、一人で留守番をしていた修一は、出来心で女の子用のヘアバンドをしていたところをセールスマンの人に見られ、女の子に間違われてしまいます。 これを機に自分の気持ちに気づいてしまった修一は、その時部屋にあった高槻さんから貰った服(高槻さんは男の子になりたい願望があって女の子っぽい服は着なかったので、ちょっと前に修一の姉に自分の服をプレゼントしたのです)を着てしまいます。 そこを、たまたま家に訪れたクラスメートの千葉さん(女の子)に見られてしまうのです。 秘密を知った千葉さんは、修一に女の子の服を着せてみたくて、修一の誕生日に女の子用の服をプレゼントします。 しかし、高槻さんにその事を知られてしまい、高槻さんも自分は男の子用の学生服を着て遠くに出かけることを告白。 それ以降、修一が女の子の格好、高槻さんが男の子の格好をして出かけるという、密かなデート?を行うようになります。 それ以降、クラスメートに秘密がバレてしまったり、女の子の格好をした修一を見た男の子が修一に恋したりなど色々なことが起きていきます。
コレは久々にハマりました。 男の子と女の子が入れ替わるという設定は昔からありますが、性別(特に身体つきの差)が異なることに戸惑うだとか、だんだんと倒錯した方向に走っていくだというものが多いです。 しかし、この物語では、ちょっと視点が異なるような気がしています。 まず、小学5年生という設定。 まだ第二次性徴を迎える前で、身体つきは男の子と女の子の差はほとんどありません。(途中、生理や夢精といったものに遭遇し戸惑うといった描写はあります。 これからこういうモチーフも描かれていくのかもしれませんが) どちらかというと、身体的な違いに焦点を当てるのではなく、もっと深い精神的な部分が中心となっているようです。 それも、判りやすい気持ちではなく、なんだかわからないモヤモヤとした感情です。 特に修一は、ハッキリとした自覚があって悩むというよりは、なんだかわからない気持ちに徐々に気づいていくといった感じ。 しかし、自分の気持ちに気づくのと裏腹に、周りにバレると嫌われてしまうのではないかという思いが募り、背徳感を感じるようにもなるのです。 この部分は、修一が夜寝てるときに見る夢の描写によく現れています。 特に印象的だったのは、修一が自分が女の子になっているという夢を見て、目覚めると夢精していたという場面。 この瞬間、台詞は無いものの、なんだかわからない気持ち(と自分の身体の変化)に呆然としている修一の姿が全てを現しているようです。
先ほど書いたとおり、テーマとしては昔からある話なんですが、非現実的な感じが全くしません。 それは、この漫画の設定によるところが大きいような気がしています。 まだ性別が完全に分化していない微妙な時期で、自分の感情もはっきりとした明確なものではないけど、なんだかドキドキする気持ち。 それは、形こそ違えど、この時期に体験する初恋のときの、なんだかわからないけどドキドキする感情に似ているのかもしれません。 それが、たまたま修一の場合はこういう感情だったわけで…
最初に「絵に惹かれて買った」と書きましたが、この漫画の絵について少々。 この漫画の志村さんの絵は、山名沢湖さんみたいにポップな感じではなく、もっと透き通った線で描かれています。 この絵柄が、この漫画の設定に非常にマッチしています。 この透き通った線だからこそ、登場人物の微妙な表情の変化から、透き通った心の奥底が見えてくる…そんな気がします。
最初のうちは、キャラの描き分けができてなくて誰が誰だかよくわからない点を除けば(^^;)、個人的には非常にオススメでございます。 特に、日常生活に疲れてドキドキを忘れかけた大人に読んで欲しい漫画です。