PC-Engineの音楽は何故ショボいのか?についての考察。

元々は、FMPSGメンバーでもあるDarios Sawmさんの日記(2009/10/08)が発端でした。


ファミコンの拡張音源の一つであるVRC6(※本来、VRCとしての機能がメインであり音源はオマケ)を使用している楽曲は総じて迫力もゴージャス感も十分であると私は感じるのだが、PCエンジンの内蔵音源であるHuC6280を用いた楽曲は迫力に乏しく頼りない雰囲気のものが多い。これは何故なのだろうか?。
これは私も超同感。 特にMSXユーザであれば、比較対象として同じ波形メモリの「SCC」が筆頭に上がるわけですが、同じ波形メモリ音源なのにも関わらず、PC-Engineゲームミュージックはイマイチ印象が弱い気がすると思っていました。 それは何故だろう…?と。 色々と考えてみたのですが、その後、国王さんが日記でレスを返しています。 それによれば…

ひとまず考え付く原因は、各音源のユーザー層の違い(VRC6使いは総じてヘビーユーザーである)くらいでしょうか。音源に対する思いが、曲の仕上がりに表れると。
との事。 正直なところ、PC-Engineの自作曲(同人音楽等)をあまり聴いたことが無いので、正しいかどうかはわからないのですが、「VRC6使いは総じてヘビーユーザー」という可能性はありそうな気がします。(最近はTrackerもVRC6に対応したそうですし、Famicompo miniの作品を聴く限りは確かにレベルの高いものが多い) ただ、市販ゲームの音楽という側面で見れば単純比較は出来ないのかも。(少なくとも、VRC6搭載ゲームの音楽はどれも素晴らしいものだったのは疑いようも無い事実ですが)
…で、更にDarios Sawmさんの日記(2009/10/13)に、これまたFMPSGのChabinnさんの見解が記されていました。

RP2A03+VRC6が良く聞こえるのはノイズも含めた時の発音数の多さと三角波が鍵を握っているのでは?
ということで、これを踏まえてDarios Sawmさんは特に三角波の強みがあるのでは?という部分を強調していました。 確かに、ファミコン三角波は独特で、低音で鳴らすと発音の重さと同時に独特のノイズ(ギュイーンという感じの音)で唯一無二の味わいが出ます。 また、高音で鳴らすと柔らかく心地よい音を奏で、これもまたイイ!
ただ、三角波には唯一かつ最大の欠点があります。 それは「音量調整ができない」こと! 恐らく、矩形波の中間音量(=V8前後)でバランスが合うよう設計されていると思うのですが、三角波ベースを強調させたい場合、(三角波をパラで録音して増強させる等しない場合は)矩形波等の最大音量を下げてやらないといけません。 しかし、矩形波の音量を下げてしまうと、ダイナミックレンジが確保できず、表情に乏しい曲となってしまう可能性があります。(三角波ベースといえば「サマーカーニバル'92 烈火」の曲なんかもベースラインが肝なんですが、ベースラインの音量を確保すべく、相対的に他のパートの音量を極限まで下げている感があります) 私個人の意見として、三角波の音量操作が出来ていれば、ファミコンミュージックの歴史は変わっていたのでは?と思えてなりません。 まぁ、三角波の音量制限を克服するのも、ファミコンミュージックという制限音楽の楽しみの1つではあるのですが…
で、他の方の見解は上記のとおりなのですが…私は、この問題?は音源性能の違いだけではない気がしています。 答えはもっと単純で、コナミの持つ資産やノウハウが平均的なPC-Engineの音楽と比べて遥かに上回っていた、という部分が根源ではないかと思っています。
まず、比較対象として挙がっていたVRC6+2A03ですが…VRC6は設計の段階からファミコン内蔵音源との親和性」を保ちつつ、「よりゴージャスに聴こえる」よう、緻密に計算して作っている音源という印象があります。 新たに追加された鋸波は、ファミコンのデューティ比が極端な音色に割と鳴りが近いんですが、それとはまた違った癖のある音源で、ベースライン等に使うと独特の存在感を示します。 また、追加された矩形波2音はファミコン内蔵音源の矩形波の上位互換ともいうべきもので、ファミコン矩形波デューティ比3段階(一応4段階だが、25%と75%はほぼ同一に聴こえる)に対してVRC6では8段階のデューティ比となっており、ファミコン内蔵と似た音ながら、よりキメの細かい表現が可能です。 つまり、VRC6は「ファミコンらしさとゴージャスさを両立する音源」として設計されている以上、どう使おうとスカスカな音楽には成り得ません。 もはや設計の段階でアドバンテージがある、と。
対してPC-Engineですが…波形メモリは一見自由に音作りできそうですが、実は(何も知らないと)音色を作る段階からして非常に難しいのです。 まず何をやれば良いのかがわからない! 私も大昔、SCCで音色を作ったりする際にどうすれば良いのかわからず、ひたすら方眼紙に模様を描いては片っ端からデータ化し、それを使っていました。 それでも、「使える」音は数十個に1個くらい。 ノウハウが無いと、そもそも音色作りの段階で頓挫してしまいます。 同じ波形メモリ音源としてSCCがありますが、こちらはPC-Engineと比べて段違いの表現力があるように思えます…が、同じ波形メモリであれば(分解能は異なると思いますが)同じ波形をぶち込めばほぼ同じ音が鳴るはず。 それが鳴らないのは、PC-Engineのゲームを作るベンダーに波形メモリ音色ライブラリが揃っていない、あるいはノウハウが無い状態だったのでは?と推測できます。
SCCに関しては、以前某マガの企画でSCC開発者の一人であるピストン上原氏にインタビューしたことがあるんですが、その際に出てきた資料を拝見すると、当時の苦労と熱意を窺い知ることができます。 バインダーからはみ出るほどに挟まれていたのは、SCCの波形を描いたと思われる紙! それは恐らく試行錯誤の連続だったのでは?と推測されます。 当時、SCC初搭載のゲーム「グラディウス2」が発売されたとき、ユーザはそのゴージャスな音色に度肝を抜かれたのですが、それは練りこまれた音色(と壮絶な打ち込みテクニック)に裏打ちされたものだからなんだと思います。 それに対して、PC-Engineでは、ベンダーにそこまでのノウハウが無かった為、総じて「ショボい」とされる音が多かったのではないか…と。
ただ、PC-Engineでも非常にデキの良い音楽は存在します。 私の知っている範囲だと、まず「マジカルチェイス」の音楽。 音色から打ち込みテクニックまでとにかく徹底しており、軽快かつドラマチックな楽曲自体のデキとも相まって、個人的にはPC-Engineでナンバーワンだと思っています。 それと、ファルコムから出ていた「風の伝説ザナドゥII」の内蔵音源音楽。 初代はかなりショボい感じだったのですが、「II」のサントラを聴いた時には度肝を抜かれました。 PC-Engineのはずなのに、出音の音色や特徴はまさにコナミのSCCそのもの! 「このゲームは外注でコナミが作ってるんじゃないか??」と当時はかなり本気で思ったくらいです。(後日、ある方に伺った話だと、この曲の楽曲担当者はコナミの音を研究し尽くして作っていたとの事) つまり、音源が違うから音がショボイわけじゃない、やればちゃんと出来るんだ!ってことです。

というわけで、私の見解をまとめるとこんな感じです。

  1. VRC6がゴージャスなのは設計段階でそうなるよう計算されているから
  2. PC-EngineがSCCと比べてショボいのは音色ライブラリやノウハウの差
  3. PC-Engineだからできないのではなく、やろうと思えばちゃんと出来る

ただ、SCCとPC-Engineの波形メモリ音源はもちろん設計も違いますし、音が出力されるまでの回路によって劣化の仕方が違ったりもするでしょうから、「音源自体の性能差」ってのも興味があります。 できれば、PC-EngineとSCCで全く同じ音色を鳴らしてみて、どう違って聴こえるか…ってのを見て(聴いて)みたいところではあります。(PC-Engineは手元に環境が無いので試せません…誰か試して!^^;)

他にも色々書きたいことはあるんですが、今日はとりあえずこのへんで。