C SCENE/武富智 & サイン会

…というわけで、昨日に引き続き本日は、拙者的一大イベントである武富智先生の初サイン会に行ってきました!
…とその前に。 今回のサイン会開催のきっかけとなった、武富智先生の最新短編集「C SCENE」をご紹介します。



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武富智先生といえば、先日遂に完結した「EVIL HEART」が長編作品の代表作ですが、実は珠玉の短編作品も沢山描いておられます。 今回発売になった「C SCENE」は、2003年に刊行された「A SCENE」「B SCENE」以来、実に8年ぶり(!)となる3冊目の短編集です。 前回の短編集の後、長編作品「EVIL HEART」「この恋は実らない」を手がけられた武富先生ですが、その時の様々な経験が今回の「C SCENE」に反映されているようです。 今回の短編集は、これらの長編連載の終了後に描かれた作品がメイン(※「どんぐり飴」のみ、EVIL HEARTの執筆中に掲載)ですが、実は武富先生の絵柄はEVIL HEARTを境目に、そしてEVIL HEART執筆中にも大きく変化しています。 元々魅力的な絵を描かれる方でしたが、最近の作品では特に人物の表情が以前にも増して人間味溢れる素晴らしいものになっています。 ここまで吸い込まれそうなほど魅力的な表情を描ける漫画家は数えるほどしかいないのではないかと。 瞬きをする間も惜しいほど、その絵に釘付けになってしまいます。
そして、絵の素晴らしさはもちろんの事、その絵を活かすストーリーも素晴らしいです。 以前は若者の恋愛模様…主に「若さゆえの過ち」とか「若気の至り」的な部分をコミカルかつドラマチックに描いた作品が多かったのですが(今回の短編集にもその手の作品がいくつか収録されています)、「C SCENE」ではそれらの作品よりも、「歳を重ね、様々な経験をしたからこそ気づく感情や言葉の重み」を扱った作品のほうが印象に残りました。 これは間違いなく、武富先生の渾身の一作「EVIL HEART」を経たからこそ出てきた作品なんだと思います。 作中で語られる言葉が、登場人物の表情が、とにかく心に突き刺さる。 これらの作品を読んで、もう何度泣いたことか…EVIL HEARTで心を奪われた方なら絶対に読んでおくべき作品だと思います。

ここで、「C SCENE」に収録されている作品の軽い紹介と感想を書いてみたいと思います。


どんぐり飴
主人公「梓」が、とある出来事をきっかけに過去を走馬灯のように思い出し、更に自分のいない世界を見てしまうことによって、改めて身の回りの人の想いと自分の感情に気づく話。 この話はとにかく、ラスト近くで梓が泣くシーンが素晴らしすぎてもう! 最近のマンガの中ではダントツに泣き顔が魅力的なヒロインだと思います。 このページは本当に何度観てもその絵に吸い込まれそうになります。

C SCENE「どんぐり飴」より (P32)
ちなみに、この作品では「この恋は実らない」のヒロイン百合子さんがコソっと出てますので、是非探してみてください。
(2001/3/2追記: どんぐり飴屋さんも実は「この恋」に出てくる焼き芋屋さんっぽいです。他にも色々な隠れキャラ?が出てくるようですので、是非全部見つけたいですw)
 
 
Yell
この作品は以前blogでも取り上げているので、詳しくはそちらを是非。 私は、この作品のモチーフは武富智先生自身なんじゃないかな?と思ってます。 そう思いながら読むと色々なことを考えさせられる作品です。
 
 
スゥィート10ショット
身勝手な男「忠」と、その彼に振り回されっぱなしの「佐奈恵」。 佐奈恵は忠と別れる決意を秘めて彼とバドミントンの勝負をする中で、自分の本心に気づく… このテイストは以前の短編集でも見られたパターンですが、ラスト前のドンデン返しが面白かったです。 予定調和を敢えて一旦崩す返事に最初は唖然としたんですが、その直後に本当の気持ちが打ち明けられてイイ感じで終わります。
 
 
彼とアルミケースの底
駅前に留めてあった自転車のカゴに入っていた謎のアルミケース。 その中身を巡って妄想するうちに様々な感情に気づいてしまう… このシチュエーションでこういう物語が出てくるという発想が素晴らしいです。 途中の黒い感情は人間の本質を見抜いているようで心にグサリと刺さる一撃でした。 しかし、最後のオチがこれまた秀逸で…最後の最後でちょっと和みました。(^^)
 
 
大恋愛
ヴァイオリニストを目指す男子高校生「加瀬」が、いつも自分のヴァイオリンを聴きに来る「菅野」に恋愛感情を持つが、その感情に惑わされるとヴァイオリンの演奏がムチャクチャに…恋愛とヴァイオリンのどちらを取るか?という話。 この話では加瀬の表情が肝となるコミカルな作品に仕上がってます。 個人的には、コンクール終了後に加瀬が先生に放った「とある一言」が強烈で忘れられませんw
 
 
SUPER HEROINE
これはヤヴァいです。 読んだら絶対泣く。 この話が掲載されたのは「アオハル」という雑誌で、この雑誌のコンセプトはそのまんま「青春」…なんですが、この話の主人公は、一見青春からは最も遠い堅物なご老人。 しかし、物語が進んでいくと「本当の主人公」が見えてきます。 それは、ご老人の生きている「今」には出てこないんですが、確かな愛情と絆で結ばれており、その事に気づいた時にはもう… 彼女は確かに「SUPER HEROINE」でした。 この作品は、EVIL HEARTで人と人のつながりや絆を掘り下げて描くという経験を経たからこそ描けた作品だと思います。 他の作品も素晴らしいのですが、これは特に皆さんにも是非読んでいただきたい作品です。
 
 
B SCENE AND BOYS LOVE
この作品は、前作「B SCENE」に掲載されている「いつか忘れてしまうけど」の続編ですので、まずそちらから是非。 前作も元々退廃的な作品で、その影を本作でも引きずっている感があります。 最後は、希望が見える部分と、その一方で一筋縄ではいかない現実の両面を提示したところで終わります。 個人的には若干スッキリしない部分が残る作品なのですが、もしかするとこの作品は更に続くのかな…?とも。

…改めて各作品の紹介を書いてみると、武富先生の短編って実は突拍子も無い設定が結構あって説明するのが難しいですね…(^^;) 突拍子も無いドラマチックなシチュエーションはある意味マンガならでは…でもあるのですが、そこに描かれているのは誰しもある程度経験のある人間味溢れる感情で、どこかしら共感できるものが多いのも事実です。 現実を淡々と見せるのではなく、ダイナミックな切り口から限られたページ数で普遍的感情を「魅せる」武富先生の手腕には改めて驚かされました。


…さて、そんな「C SCENE」のサイン会に行ってきました。 今回、サイン会に並んでいる最中、改めて「C SCENE」を読み直していたのですが…やはり何度読んでも「Yell」と「SUPER HEROINE」で泣く。 実は、会場に行くまでの電車の中でも少し読んでたのですが、「Yell」の途中で涙腺がヤヴァくなって読むのを止めていたのでした。 そんなわけで、武富先生にサインをして戴く時に、「C SCENEって電車の中で読めないんですよ…絶対に泣いちゃうんです。 さっきも『SUPER HEROINE』読んでて涙が…」と自分で言いながら、SUPER HEROINEの1シーンを思い出して少し泣けてきたところで、武富智先生から戴いた一言…

「泣かないで。」

うわー!サイン会で先生にお礼を云うつもりが、逆に先生に励まされてしまい恐縮至極… 緊張してほとんど目を合わせられなかったのが少し心残りでしたが、色々な意味で忘れられないサイン会になりました。 武富智先生、どうもありがとうございました!